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――どんな人間でも、何かの役には立つものさ
                平山夢明 「異常快楽殺人・人体標本を作る男」

人の持つ感情の中で最も近しいものは、愛情と憎悪だという。
母に似た女性ばかりを解体し、皮を引き剥がしてマスクとベストを作ったエド・ゲインの犯行には、それが如実に現れている。

サイコ、悪魔のいけにえ、羊たちの沈黙……死して20年以上が経つ今もなお虚構の世界に絶大な影響力を与え続ける彼は、どのような男であったのだろうか…。

※折りたたんだ先の閲覧は自己責任で(グロ画像あり)。






エドワード・セオドア・ゲイン(エド・ゲイン Edward Gein)
ウィスコンシン州 1906.8.27 - 1984.7.26
別名:-


シリアル・キラーとは、四人以上の連続殺人者のことである。多方面に影響を与えたエド・ゲインが実際に殺したのはわずか二人だ。
それだけをみれば彼が異常殺人者として名を連ね、幾度も映画のモデルにされるのはおかしな話かもしれない。テッド・バンディだとかマンソンだとか、華やかさに事欠かない殺人犯がいるにも関わらず、だ。
…一見して大人しく善人のようであったエド・ゲインが起こした事件は、それらとは一線を画したおぞましいものだった。

なお、Geinは本人によると「ギーン」と読むらしいが、本記事中では一般的に知られているゲインのほうで統一していく。


1957年11月16日、プレインフィールドの外れにある荒れた農場の一室で、シューレー保安官は行方不明になっていたウォーデン夫人を発見した。
ウォーデン夫人の遺体には首がなく、牛のようにさかさまに吊り下げられみぞおちから股間までがばっくりと切り開かれていた。



バーニス・ウォーデンの遺体


エドの母親オーガスタ・ゲインは狂信的なルター派信者であった。
敬虔で傲慢な、自分の考えを押し付けることを躊躇しない父親に育てられた彼女は、父と同じように頑固で社会のあらゆる悪徳を憎む支配的な女性に育っていった。
やがて彼女はジョージという男と結婚し、子供をもうける。
そのときから、オーガスタの支配は始まった。
オーガスタは雨が降るたびに子供たちを呼びつけ、ノアの箱舟の話をしては「世界の終わりが来た」といい、口紅をつけ男達を誘う全ての女は邪悪なものであり、それがはびこっている世の中は腐りきっているといった。
そしてそんな腐りきった世の中はいつか神の手によって滅び去り人々は死滅するのだと繰り返し、そのたびにエドと彼の兄は行き場のない不安に苛まれた。

また、オーガスタはアル中の夫であるジョージをも激しく憎悪していた。
彼女は夫と一緒になったことで自分がいかに苦労したかを何度も何度も子供達に言い聞かせ、子供達に父親の死を祈らせた。
オーガスタは子供達が友達を作るのを許さなかった。友達が家に入ることによって、悪が外からやってくると信じて疑わなかったからだ。
母親を畏れながらも深く愛していたエドは、それに従った。
彼女にとってエドの持つ男性の部分は全ての退廃の現況であり、子供達に男は生まれながらの罪人であると繰り返し、自分のペニスに唾を吐きかけるように命じた。

やがて祈りが届いたのか、ジョージが心臓発作で死去すると、エドの兄ヘンリーは自分達が正常に女と付き合えないのは母のせいだとオーガスタをおおっぴらに罵るようになった。
当然ヘンリーと母を盲目的に愛していたエドは真っ向から対立することになる。
父の死から二年後、ヘンリーはゴミ焼き場で焼死体となって発見される。
エドが兄を殺したのではないかという疑惑もあったが、この一件は事故として処理される。
こうしてエドは愛する母と二人だけの生活を手に入れたが、ほどなくしてオーガスタも脳溢血で倒れ、息子の必死の看病の甲斐もなく他界する。

母の死後、彼女が使っていた部屋はエドの手によって生前と同じように保たれた。
人間で出来た食器や散乱する残骸によって汚染されたエドの家の中で、オーガスタの部屋だけが唯一清潔に、完璧に保たれていた。こうすることで、彼は母の面影を永遠のものにしようとしたのである。
しかし、エドには母親以外近しいものは誰もいなかった。
オーガスタの死によって、彼は完全にひとりになったのだ。


母によって捻じ曲げられた彼の性的欲求は、発散される場を求めるようになる。
異性愛者としての確固たる像を持ちながら、しかし自信の男性の部分を隠して女になりたいという特異な願望をかなえられそうな場所はなかった。やがてエドは一つの道を見つけ出す。
…好きなときに、好きなだけ女になればいいのだ…。
自分の中を駆け巡る願望を吐き出す糸口を見つけたエドは、墓場から女性の死体を取り出し、自宅に持ち帰った。
気が済むまで死体とセックスしたエドは死体をそのままにしておいたが、数日後、軽い不敗が始まる。土葬であるアメリカでは死体に防腐処理を行うが、それでもエドの熱で温められた死体には蛆がわき始めていた。
「しかたがないので中身を見ることにした」
エドは死体を解体する。

彼は何度も試行錯誤を繰り返し、死体解体の手順をスムーズなものにしていったり、独自の防腐処理を発案したりした。



※続く
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