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エドワード・セオドア・ゲイン1
墓を暴き皮を引き剥がし、「女になるための」小道具をそろえたエドは、予後とそれらを身につけて狂った宴に興じるようになった。

※折りたたんだ先の閲覧は自己責任で。




様々な技術を独自に生み出す一方で、エドの夜の仕事は忙しさを増していった。
何せ家具やそのほか諸々のものを作るための「材料」を調達してこなくてはならなかったのだ。
また、彼の編み出した優れた防腐処理技術により、口に触れるものまで人骨で作っていたにもかかわらず、エドは感染症にかかることがなかった。

さて、話を冒頭のウォーデン夫人の件に戻そう。
母オーガスタの代からプレインフィールドに住んでいたエドは、いつもへらへら笑う少しばかり頭の弱い男――少なくともプレインフィールドの住人達からしてみれば、無害な男であった――として認識されていた。利用されているとしても嫌な顔一つせず人々の手伝いをする彼は、ある意味で“善人”であったのだ。
その日はちょうど鹿猟の解禁日だった。
その名の通り何もないプレインフィールド、他には酒を飲む程度の娯楽しかないここの住人達にとっては、大きな獲物を仕留めれば賞金の出るこの狩りは待ちに待った一大イベントだった。

夕方五時、バーニスの娘フランク・ウォーデンが母と経営している店に戻ると、彼女の姿はなかった。そればかりか、床には大きな血溜まりが残されていた。
彼はすぐに警察に連絡したが、バーニスの行方はようとして知れなかった。
警察に何か思い当たることはないかと訊ねられたとき、フランクは母にしつこく言い寄っていたエド・ゲインのことを話す。
解禁日の前日、エドは店を訪れてフランクに仮に行くのかと何度も何度も訊ねている。
そして解禁日当日、店には一枚の伝票が残されていた。

――不凍液1ガロン エド・ゲイン

53年に起きたメアリー・ホーガン殺害の際には重要参考人として名を上げられていたにも関わらず放って置かれたエドだったが、今回はこの伝票と日ごろの態度から足がついた。
シューレー保安官とロイド警部は若い保安官にエド本人を探し出せと命じると、連れ立ってエドの家…街の外れにある荒れた農場に向かった。


荒れ果てたエドの家は、まさに彼の狂気をそのまま形にしたようなおぞましいものであった。
腹を割かれ臓物を取り出され(エドは被害者の臓物を食べることもあった)、まるでこれから解体を待つばかりといった牛のように逆さに吊り下げられたウォーデン夫人が、この狂気の家にいた。
二人はさらに家の中に踏み込むと、ゴミで足の踏み場もない部屋の中を懐中電灯の光を頼りに念入りに調べた。
ベッドポストに飾られた人間の頭蓋骨、胴体だけのトルソ、人の骨と皮で作られた染みのついた椅子、柄を人骨で飾ったナイフとそれが突き刺さった首。
他に目をやれば、数人の顔の皮を使ったランプシェードがぽっかりとあいた虚ろな目でこちらを見上げていた。
別室の衣装棚からは防腐処理を施された女性器が大量に発見された。


…他にも食用とするために血抜きした心臓、ニンニクと一緒に漬け込まれた内臓、人骨で出来た数々の食器など枚挙に暇がないが、ここでは長くなってしまうのでこれ以上詳細を書くのは控えることにする。なお、これらの素材のほとんどは彼が墓から掘り返した死体達であった。
とにかく、この狂った家にあるものすべてが動かぬ証拠となり、エドは逮捕された。

エドの精神鑑定を行ったウィルモフスキー博士との対話によると、バーニス・ウォーデンとメアリー・ホーガンは母オーガスタに似ているために彼のターゲットとなった。
支配的な母の元で捻じ曲がった教えを聞き続け育ったエド・ゲインにとって、母以外の女は全て憎むべきもの、忌むべきものであった。
けれども母だけは彼にとって唯一絶対の神聖なものであったし母さえいれば孤独ではなかったので、オーガスタに似ている女性を襲ったのだ(エドは「特に目が似ていなければならない」と語っている)。
けれども、母に似た相手を壊すということは、すなわち母を壊すということでもある。
母親と恐ろしいほどに強固な絆を持っていたエドは、被害者達を壊すことによってその絆を…ひいては自分を一生支配し続けたオーガスタを壊そうとしていたのかもしれない。


この恐ろしい男は人肉を食べたことについては死ぬまで明言しなかった。
しかし「生涯で一度だって鹿狩りをしたことなんてない」と言い放ったエドが、過去に周辺の人に「一人では食べきれないから」と何かの肉を渡しているのだ。それも何度も。
保安官も、この肉の出所についてはあえて調査をしなかった。住民達がパニックになるのを防ぐためである。

事件の余りの凄惨さに検察側が彼の責任能力を問うことを躊躇し、結果エドは精神病院へと送られる。
このころ、社会的な影響を反映したかのように趣味の悪いゲイン・ユーモアがいくつも誕生している。
病院に収容されたエドは温厚で大人しく、職員達や同じ収容仲間から「リトル・エディ」と呼ばれて親しまれた。
しかし、彼は決して暗い欲望から抜け出すことはなく、また抜け出そうともしなかった。
同じ病院にいた青年に人体の解体がどれほどに楽しいかを語ってみせ、その青年は後に殺人事件を起こしている。「エディの話を聞いてやってみたくなった」というのが犯行理由であった。狂気は人から人に伝染するのだ。

やがてエドは癌による呼吸不全でこの世を去る。
これほどに世を騒がせた人間であり人を人と見なかった男でありながら、78歳という当時にしては長寿だった。
彼は病院のベッドで穏やかに死を迎えたという。

このあまりにもおぞましい事件の犯人は、死後母の墓の隣に無記名で埋葬された。



※次回はエドモンド・ケンパー
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