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ヘンリー・リー・ルーカス1
ヘンリー・リー・ルーカス2

※折りたたんだ先の閲覧は自己責任で。




しばらくして戻ってきたヘンリーは、さっそく恋人のベッキーに会いに行った。
しかしベッキーは犯罪的な生活を拒むようになり、自分のこれまでを懺悔するとわめいて、ヘンリーの言葉には耳を貸さなかった。
二人の間の溝が埋まることはなかった。
刻々と離れていく二人の間を、ヘンリーはどうすることもできなかった。
彼はベッキーを無理矢理連れ出すと、フロリダに向かう途中のモーテルで殺害する。
彼女もまた、母ヴィオラと同じように首を切り裂かれて死んだ。

最愛の恋人を殺したことで動揺したヘンリーは、ベッキーの死体をもって相棒のオーティスのところに駆け込む。
オーティスは従妹の死体を見ると笑い、気にするなと言った。
死体愛好家でありカンニバルであったオーティスは、ヘンリーが祈りの家で世話をしていた老婆を殺しに行っている間に死体になったベッキーを犯し、その肉を食っていた。
ちなみに、ヘンリー自身も人肉を食べないかと誘われたが「ソースの味が嫌いだった」ので断っている。

ベッキーを殺したことで完全に糸が切れてしまったヘンリーは、この老婆…ケイト・グラニー・リッチを殺した際、隠蔽工作を行うこともなく下水に放り込んでいる。
このことから足がつき、彼は銃器の不法所持(殺人の前歴がある者は銃器を所持できない)であっけなく逮捕される。
逮捕されたヘンリーは、いよいよ自分も最期だとパニックになった。
収容された先でストッキングで首を吊ろうとするが、すんでのところで発見される。
常に口にしていたアルコールと麻薬を断たれたヘンリーに、凄まじい禁断症状が現れる。
その最中彼は「神」に出会い、自分の犯した罪の全てを告白することを決心したのだった。


…ヘンリーは自供の間中、終始警察が望む答えを口にした。それが真実であろうとなかろうと、彼は望まれた答えを口にしなくてはならなかったのだ。
ヘンリーはさほど知能が高いほうではなかったが、相手の望む答えを察知する術に長けていた。虚言癖を持っていて、いつでも捜査官が自分に何を言ってほしいかを瞬時に悟り、それにあわせた答えを口にしたのである。
それはヴィオラによって抑圧されてきた幼少時代からの産物であり、「大人が望む答え」を言わなければ生きていけなかったためだ。
虚言癖によって二転三転する供述に、警察は散々振り回されたという。
ヘンリーが100件以上の殺人を犯したことは間違いないが、360人という数字は疑わしい(自供自体は3000件)。

公判中に調べられたヘンリーの脳は、幼い頃に受けた虐待と栄養失調によって広範囲に重篤な神経系統の異常を煩っており、また彼が他者に感情移入するという能力を欠いているのは前頭葉が破壊されているためだった。
血液中からは大量の鉛とカドミウムが検出され、毎日摂取していたアルコールやドラッグ、ニコチンが彼の体を蝕んでいた。

11件の殺人罪で起訴され死刑を宣告されたヘンリーであったが、その協力的な姿勢が評価され、特別捜査官として一連の殺人事件の捜査に加わっていた。
しかしこれも、「ヘンリーが警察の望むように自供するのをいいことに、未解決事件を片付けてしまおうとしているのではないか」との批判も根強くある。
ヘンリーが死刑を宣告されたにもかかわらず捜査官として生きながらえている事実にも、強い反発が見られた。

ヘンリーがつかまった後、オーティスも放火容疑でつかまっている。こちらは刑期を勤めている間に肝硬変で死亡した。


2001年3月13日、ヘンリーは心臓発作で死亡する。
ヘンリーは獄中でキリスト教に改宗しほんのわずかだけ人間的な成長を見せたが、たとえ生きていても「精神的にも人間的にも10歳未満で死亡した」彼が怪物から普通の人間へ戻れる日は、決して来なかっただろう。
彼にとって世の中は悪意に満ちた地獄であり、彼はその中を怪物になることでしか生き抜いていけなかったのだから。



※次回はエドワード・セオドア・ゲイン。
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