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前半→ ヘンリー・リー・ルーカス 1

殺しをするのなんて、息をするのと同じことさ  ――ヘンリー・リー・ルーカス

※折りたたんだ先の閲覧は自己責任で。




全てを失ったヘンリーは、学校に行かなくなった。そして時を置かずして奇行が始まる。
彼は兄と共に森に入ると、同性愛行為に耽った。また、時には動物の腹を割いて性行為の小道具として使った。
兄にそそのかさて街で食料を盗み、その食料が尽きるまでは家にもどらずに森の中で暮らした。
しかしヘンリーが14のころに兄は年齢を偽って海軍に入隊、それ以降姿を消してしまう。ヘンリーもこの生活から脱出しようと兄を見習って海軍に志願するが、左目の障害が引っかかってしまい、入隊を拒否された。

そんなとき、父アンダーソンが急性肺炎で急逝する。
父を埋葬したヘンリーに対するヴィオラの執着はますます激しくなっていった。

やがてヘンリーは最初の殺人を犯す。
その日、家にもどったヘンリーの前で、ヴィオラが客とスカトロ行為をしていた。気分の悪くなった彼はそのままフラフラと外に出ると、バス停で見つけた17歳の少女に目をつけた。
彼女を脅して人気のない場所まで連れて行くと殴りつけて気絶させ、無理矢理犯した。気がついた少女が悲鳴を上げ始めると、ヘンリーは彼女を絞殺した。
しかしこの事件は迷宮入りし、33年後本人の自供によって犯行が明るみに出ることになる。


相手を殺してから犯すという一連の流れは、彼の殺人のパターンとなっていった。
ヘンリーにとってセックスとは最悪で最低のものだったのである。
彼は自分をそのまま受け入れてくれる相手などどこにもおらず、相手を殺さなければセックスできないという、一種脅迫めいたものにとらわれていた。
この事件の後ヘンリーは逮捕されているが、それは殺人ではなく不法侵入であった。泥棒がバレたのだ。逮捕された後、彼は更正施設に送られている。

1959年9月、彼は再び世に出る。
テクムセにある義姉の家に身を寄せたヘンリーは、そこでマリーという娘と恋に落ちる。
しかしそれを知ったヴィオラは、ヘンリーを追いかけてテクムセまでやってきた。
そして結婚式の前日、ヘンリー、マリー、ヴィオラの三人は居酒屋で激しい口論をする。
ヴィオラはありとあらゆる悪態で二人を打ちのめし、「自分のココで飯を食わせてやってるんだよ!」とヘンリーが席を外した隙に自分の股間をマリーに見せ付けた。
激怒したマリーは「勝手にするといいわ」と言い残し、姿を消す。
疲れ切ったヘンリーは、母を連れてモーテルに戻った。そこでもヴィオラは怒鳴り続けた。
ヴィオラの金切り声を聞きながら、ヘンリーは頭痛が酷くなっていくのを感じた。
ヴィオラがほうきを持ち出してヘンリーの顔面を叩いたとき、彼の手がすっと動き、手にしたナイフがヴィオラの喉を切り裂いた。
金切り声がゴボゴボという音に変わった。彼は母親の髪を掴んで引きずり倒すと、喉に手を突っ込んで力任せに頚骨を引きずり出そうとした。
首の骨が途中まで出たところで完全に引き出せないことを悟ったヘンリーは、ヴィオラを放置し大量の血痕を残してモーテルから去る。
心配した姉がモーテルを訪れヴィオラを病院に連れて行ったが、翌日死亡した。


母が死んだことを知らないヘンリーは一度生家にもどるが、ヴィオラが戻ってこないことを悟ると再びテクムセに向かう。
ヒッチハイクの途中、足を血豆だらけにしていたヘンリーは職務質問され、そこで母親の殺人で逮捕された。そして40年の刑で刑務所に収監される。
刑務所内でヘンリーは大学レベルの訓練を最後までやりとおしたが、同時に統合失調症による幻覚・幻聴、偏頭痛などから何度も自殺未遂騒動を起こしている。

ところがこの時期、刑務所で囚人に対して使われる費用を削減しようと州当局が動いていた。ベトナム戦争の長期化による深刻な財政圧迫が、州の財政を蝕んでいた。
こうして、“社会復帰可能である”とみなされたヘンリーは、追い出されるようにして社会に戻される。
ヘンリーは「まだ戻る心構えが出来ていない。ここから出られても、自分は必ず殺人を犯す」と言っているが、審査員たちはこれを無視した。
彼にとって最も安全である場所から放り出されたヘンリーは、3ブロックほど先で一人の女性にバス停の場所を尋ね、その瞬間彼女を絞め殺している。

後に「360人殺しのルーカス」と呼ばれる彼の殺人行脚の始まりである。


1979年、ヘンリーはオーティス・ツールという青年と出会う。
オーティスはヘンリーが働こうと決めた農場の先輩だった。
オーティスは同性愛者だったが、ヘンリーと彼は性的なパートナーとはならなかった。
代わりに二人は互いを殺人の相棒とし、週末が来るごとに遠路まで出向いて暴行・殺人・強盗など繰り返した。
時にはヒッチハイク中の女性を強姦した上で両腕の関節を潰し足の腱を切り、そうして必死になって逃げる相手の頭を岩で潰したりもした。
後にヘンリーは、毒殺以外のありとあらゆる殺害方法を試したと自供している。
ヘンリーとオーティスは殺人において「よい相棒、よきライバル」であった。
ヘンリーが息をするように事もなく人を殺すのとは対照的に、オーティスは死体の舌を切り取って勲章にするなどの異常性を見せている。

オーティスにはベッキーといういとこがいた。ヘンリーは彼女に夢中になった。
二人はちょっとした罪で鑑別所に叩き込まれた彼女を脱出させると、殺人行脚の旅に同行させた。ヘンリーは、目の前で殺人が行われているにも関わらず平然としているベッキーを酷く気に入った。

三人は家族のように暮らし、南カリフォルニアまで下りながら100件にのぼる殺人を繰り返した。
しかしここまできたところで、オーティスはかつての恋人に会ってみたいと言い出し、二人の幸せを願いながら離脱する。
ヘンリーとベッキーの二人はテキサスまで流れるが、流れ者の二人は土地の人々に信用されず、仕方なくファンダメンタリストの説教師のところに身を寄せた。
「祈りの家」と呼ばれるこの場所は、ヘンリーにとって酷く退屈でつまらない場所だった。酒は飲めないし、信仰なんてものも、彼にとってはどうでもよかった。
だが、ベッキーはこの場所にすぐ馴染んでしまう。
信仰に染まった彼女は、ヘンリーに真人間になれと諭した。
困惑するヘンリーの下に、離れていたオーティスが戻ってくる。彼はヘンリーからベッキーの変わりようをきくと、「すぐに飽きるさ」といってベッキーをその場に残し、再び二人で殺人の旅に出かけた。



※次で終わり。
「死の腕」については虚言癖のあるヘンリーの証言では真偽の程は疑わしいので、省略している
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